「吉村虎太郎」の像(津野町新田)
「しまんとふぁん」より
「お客さん、このすぐ右手に虎太郎の像があります」 手結(てい)
さんは、その声に、ふっと、現実に引き戻されたのでした。 いつのまにか、車は、新田(しんでん)
という町の入り口にさしかかっています。
そもそも、この旅は、大岡昇平の「天誅組」という本に出会ったところから始まったのでした。 その本の主人公が「吉村虎太郎」なのです。
コンクリート製の崖の下に車をつけてもらって、階段をのぼってゆくと、そこに、堂々とした武者姿の虎太郎が、 山あいをぬってながれるせせらぎの上空をみつめ、立っています。 見上げる角度のせいなのか、いかつい顔で、左の眉などつりあがっているようです。 怒っているようにさえ見えます。 胸の中に強烈なエネルギーを抱えたまま虚空をにらみつけるその姿は、志の結実を見ることなく早世せざるを 得なかった、己の、歴史に果たす役割の無念さと、信念に対するゆるぎない自信を、感じさせます。
そもそも現代よりもはるかに人口の少なかった、この、四国の山の奥の、四万十川の現流域の、小さく、しずかな村里。 パーセンテージからするとどのくらいになるのだろう、おそらく一村まきこんでしまったほどの数の有為な若者たちが、 馳せ参じた、激しい維新の時の流れ・・・・・ なにしろ、こんなのどかで平和な里を、彼(彼ら)は、捨てているのです。
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