「お客さん、このすぐ右手に虎太郎の像があります」
手結(てい) さんは、その声に、ふっと、現実に引き戻されたのでした。
いつのまにか、車は、新田(しんでん) という町の入り口にさしかかっています。
そもそも、この旅は、大岡昇平の「天誅組」という本に出会ったところから始まったのでした。
その本の主人公が「吉村虎太郎」なのです。
コンクリート製の崖の下に車をつけてもらって、階段をのぼってゆくと、そこに、堂々とした武者姿の虎太郎が、
山あいをぬってながれるせせらぎの上空をみつめ、立っています。
見上げる角度のせいなのか、いかつい顔で、左の眉などつりあがっているようです。
怒っているようにさえ見えます。
胸の中に強烈なエネルギーを抱えたまま虚空をにらみつけるその姿は、志の結実を見ることなく早世せざるを
得なかった、己の、歴史に果たす役割の無念さと、信念に対するゆるぎない自信を、感じさせます。
そもそも現代よりもはるかに人口の少なかった、この、四国の山の奥の、四万十川の現流域の、小さく、しずかな村里。
パーセンテージからするとどのくらいになるのだろう、おそらく一村まきこんでしまったほどの数の有為な若者たちが、
馳せ参じた、激しい維新の時の流れ・・・・・
なにしろ、こんなのどかで平和な里を、彼(彼ら)は、捨てているのです。
*吉村虎太郎・・・http://www10.ocn.ne.jp/~kenjiro/ijin/yoshimura.htm
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E6%9D%91%E8%99%8E%E5%A4%AA%E9%83%8E
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